【第8回 家族に障害児がいます from N.Y.】2歳 Early Intervention (障害を認知してから)

以前にもEarly Interventionという2歳から3歳までの子供のためのサービスを受けたことは書いたと思うが、ここからが息子を自閉症児として認識し四苦八苦しながら対応していく生活の始まりだった。発達検査をしてもらい、我が子に何らかの支援が必要だと判断されてからセラピストさん達が派遣されてくるまでは、結構あっという間だった。

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早期療育の効果に大きく期待

ABA(Applied Behavior Analysis)とOT(作業療法士)、そしてスピーチセラピストさん達が我が家にそれぞれ来ることになった。正確な回数は覚えていないが、最初の頃はABAが1時間のセッションを週2回、スピーチが週1回でOTが30分のセッションを週2回程度だったように思う。それぞれのセラピストさんと電話で互いの都合の良い時間帯を話し合いスケジュールを組むのだが、2歳児相手で予定通りの日程をこなそうとするのはかなりストレスが強かった。セラピストさんも途中何人か変わったりしたのだが、人によっては連絡も無く来ないこともあったり、予定時間を大幅に遅れて来たりすることがあったので、初めの頃はそういう事態に振り回されて余計なストレスを感じることも多かった。日本だったら絶対に起こり得ないことだけど、ここはアメリカ。あまりにも予定通りに現れないセラピストさんだった時の一度だけ、コーディネーターに連絡してセラピストを別の人に替えてもらったこともある。しかし人間は環境に適応していく生き物。私も例外なく段々と、その時間にルーズな人にも上手く対応出来るようになっていった。
その頃、毎日ネットを検索したりして子供の障害についての情報を集めていたのだが、そこで良く目にしたのが「早期の療育は子供の成長に効果あり」と言ったような感じの言葉だった。なので私ももれなく早期の療育に期待した。息子は2歳。訳が分からない状態ながらに奔走した結果、セラピストさん達の誰かがほぼ毎日我が家に来て息子に療育なるものをしてくれることになった。否が応でも期待に胸が少々踊る。療育の効果で息子の口から言葉が飛び出てくるかもしれない。こちらの指示に対して理解を見せてくれるかもしれない。もしかしたら「ママ大好き!」なんて言葉も夢じゃないかも!なんて甘い期待が心のどこかにあったのは確かだ。しかしその期待も日が経つにつれて萎んでいった。現実はそんな夢のような期待を木っ端みじんに吹き飛ばすほど、全然甘くなかった。息子の障害は思っていた以上に深いという現実をまざまざと突き付けられただけだったように思う。

木端微塵になった早期療育への期待

初めてセラピストさんが来た日のことを今でも良く覚えている。最初のセッションはスピーチセラピストによるものだった。彼女はいくつもの玩具を抱えて現れ、息子に向かって「Ba」という声を出させようとした。何度も「Say Ba, Ba, Ba」と言いながら、息子の顎に優しく手をかけて口を開かせようとしたりしたが、肝心の息子は全く関心を示さず、口を開けることすら全くしなかった。彼女が差し出す玩具にも殆ど関心を示さない。それどころか癇癪を起してその場から逃げ出そうとするばかり。それをセラピストと私の二人掛かりで取り押さえ、何とか玩具に関心を向けさせようとするのだが息子は全くの無関心。型はめタイプのパズルでは、息子の手の上にセラピストさんが手を置いて一緒にパズルのピースを持ちあげ、それを型通りにはめる。そして息子をとても褒める。「グッドジョブ!」とセラピストと私の二人で褒めまくるのだが、肝心の息子には何も伝わっていない様子。そもそも彼はパズルに全く関心がないから、パズルのピースをはめてる瞬間も顔は明後日の方向を向いている。手には全く意思がなく、セラピストさんのさせたいようにさせてる状態。まるでゾンビ。彼には目の前の物に対する興味も、理解も一切無いようだった。

RitaEによるPixabayからの画像
私達は普通、子供はみんな玩具が大好きだと思い込んでいる。事実、圧倒的多数でほとんどの子供は玩具が大好きだ!ちゃんと教えなくても玩具での遊び方を自然に学ぶ。そして自分なりに新たな遊び方を創造したりもする。玩具を通して想像力も広がり、思考の幅も広がる。指先を使うことで脳も鍛えられ、子供は益々玩具の楽しさにのめり込む。親と一緒に遊びたがったりして共感する気持ちを育んだりすることで親子の間の愛情も強まる、と私は思っていた。我が子に遭遇するまでは、、、、。目の前にいる息子は、玩具の意味を理解していない。玩具が楽しいものだという事が分かっていない。玩具の使い方を知らない。遊び方を教えても、関心がないから玩具は楽しみをもたらす物ではなくただの物として存在しているだけ。そういう能力は教えるのではなく、自然と備わっているものだと思っていた。だけど自閉症の我が子は全く違う価値観の世界で生きているということを思い知ることになった。
早期の療育が効果をもたらすのは、知能の遅れがそれほど無いタイプの子供にではないだろうかと思う。我が子のように知的な遅れが顕著にみられる場合、早期の介入は親が期待するほどの効果があるかどうかは疑問がある。少なくとも我が家の場合、約一年間に渡ってEarly Intervention によるサービスを受け続けた感想は、息子の成長をそれほど感じられるものではなかったというものだった。どのセラピストさんも辛抱強く、一生懸命に息子に接してくれていたが、目を見張るような成長はもちろん、改善された部分を実感出来るような結果は正直なかったように思う。ただ、約1年間、全てのセッションに付き合ったお陰で私自身が親として、どのように自閉症という障害を持った子供に接したらいいかというヒントを沢山貰ったように思う。それは本当に大きな意味を持つものだったし、その後の家庭生活で大いに生かされていったと思うので決して無駄な時間ではなかったと今でも思っている。それぞれのセラピストさんには感謝しかない。息子のことをそれとなく相談出来たし、困ったことを聞いてもらったりしたことで精神的にも大変助けられた。あの時期にたった一人で息子の障害に向き合っていたら、正直どうなっていたのか全く想像がつかない。家族だけではどうにも解決出来ない問題があるということをしっかりと自覚して、外に向かって沢山の支援を求めることを考える最初の必要なステップだったと今振り返ってみても強く思う。

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