【第24回 家族に障害児がいます from N.Y.】発語のない息子とのコミュニケーション

もう直ぐ11歳になる我が子から言葉が発せられることは現段階では残念ながらまだありません。言葉というのは他者とコミュニケーションをとるのにとても便利なツールであると改めて思う日々。では言葉を発しない人とのコミュニケーションの取り方はどうなるのか。 我が家の場合をご紹介します。

サインランゲージと指さし

息子が2歳の頃、各セラピストさん達に家に来てもらっていたのだが、その頃に簡単なサインランゲージを2つほど教えてもらった。ひとつは胸を平手でポンポンと2回ほど叩くもの。これで「Give Me」という要求の表現になり、その後に欲しい物を指さしして相手にこちらの要求を伝えるというもの。何度も息子の手をとって、軽く胸をポンポンと叩いて取って欲しい対象物に指さしをさせ、すかさずにその対象物を手渡すという行動を何度も繰り返し教えて行く。指さしは微妙だったけど、何度も繰り返したお陰でGive Meという表現は出来るようになってきた。自発的にすることはほぼ無かったけれど、促すとちゃんと出来るようにはなっていた。ただ一度だけ、近所の公園で全く知らない少年の持っていた物に興味があったのか、それを見ながら少年に向けて胸を2回叩いてGive Meと表現していたけれど、もちろん相手に通じるはずがなく怪訝な顔をされただけで終わったことがあった。残念ながら一般社会では全く通用しない表現方法なので、身近な人に向ける以外は伝わらないという大きなマイナスポイントはあるけれど、大事なことは相手に自分の欲しいという要求を伝えること。そしてその要求が叶えられるというコミュニケーションの基本を教えること。まずは伝えるということの便利さや大切さ、そして伝わることによって自分自身の欲求不満が軽減されるということを実感してもらうことが大事。最も大切なのは何度でも繰り返す根気強さだと思う。
もう一つのサインランゲージは片方の手のひらを上に向けて開き、その手のひらを反対の手で上から切るような感じで2回ほどトントンと叩く。それは「Help」という表現になるらしい。これも何度も教えたけれど、殆ど使われることは無かった。基本的に自閉症の人は他人に助けを求めることを苦手としているのか、困っていても助けを求めてくることは殆ど無い。なので本人にとってもヘルプの表現方法を必要と感じることが無かったためではないだろうか?と思われる。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像
このようにコミュニケーションの方法を探る最初の一歩は、本当に小さな小さな一歩だった。しかし大事な一歩だったように思う。一番簡単そうにみえる指さしを教えることが思いのほか大変だった。今も完璧な指さしは出来ていない。ちなみに息子の指さしは今も要求の指さしばかりで対象物を指さし、共感を求める指さしは皆無である。

Picture Exchange Communication System (PECS)

PECSとは簡単に言うと絵カードを利用したコミュニケーション方法である。絵カードに単語も書いてあって、絵と単語をマッチングさせて理解させる。そして伝えたい内容とマッチングする絵カードをピックアップし、文章となるように並べる事で相手に伝えるという方法である。逆にこちらから息子に伝えたいことも同様に、絵カードを使ったりするとスムーズに伝わったりするので、利用価値の非常に高いものだと思える。最初は「I want,,,,」で始まる要求の文章から始まった。I wantの後に通常は欲しい食べ物の名詞が書いてある絵カードを持ってくるようにして、相手に欲しい物を伝える練習をする。そして伝えられた物を直ぐに渡し、とにかく褒める。そうやって相手に伝えることで得られる快適さが分かれば、ここから徐々に色々と文章をアレンジさせたり、名詞の数を増やしていったりなどコミュニケーションの質や幅を広げていくことが可能である。自閉症の人達は耳から入る情報よりも目から入る情報の方が理解しやすいという特性があるので、その特性を十分に活かし、こちら側から伝えたいことがある時も絵や文字を多用するようにすると伝わりやすくなる。双方のストレスが少しだけでも軽減されたらハッピーだ。学校の方でPECS BOOKというものを作成してくれ、それをバックパックに入れて学校と家との双方で使用するようにした。絵カードはそれぞれがラミネート加工され、その裏にマジックテープを張りつけてファイルの中に必要に応じて種類を増やしていけるように保管する。使用する時はそのファイルの中から絵カードを選び、マジックテープが張られているストラップ状のプレートの上に並べ、そのストラップを伝えたい人の方へ持っていく。これで最低限のコミュニケーションが取れるようになって、本当にストレスは軽減された。全ての問題は一気に解決されることはないけれど、少しづつ改善されていることが実感できると希望も持てるというものだ。ただし欲張ってはいけないと肝に銘じなければいけない。本当に根気強く、何度も何度も繰り返し促すことが大事。でも決して強制してもいけない。この匙加減が本当に難しいと常に感じている。
絵カードを使ってFirst/Thenという指示を伝えることも可能だ。例えば私はスーパーマーケットへ買い物へ行きたいとする。しかし息子が公園に行きたがった場合いなどは、First/Thenと書かれたボードのFirstの欄にスーパーマーケットの絵カードを貼り、Thenの欄に公園の絵カードを貼る。そして「最初にスーパーマーケットへ行きます。そしてその後で公園へ行きます。」とカードを指し示しながら説明。これで100%理解してもらって問題が解決するわけではないけれど、何度も繰り返して行くうちに理解出来ることが増えてトラブルが減って行くようになる。問題解決の魔法はないけれど、状況改善の為の手掛かりの一つになればと思う。「千里の道も一歩から」本日の教訓。

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