【第17回 】衝撃の書「ホモデウスを読む」 – 幸福になるには骨が折れる

この種の論理によって、人類は幸福を二十一世紀の第二の(第一は不老不死:筆者注)主要目標にせざるをえなくなるかもしれない。一見、これは比較的簡単なプロジェクトに見えかねない。もし飢饉と戦争が消えてなくなり、人類が前例のない平和と繁栄を経験し、平均余命が劇的に延びたなら、そのおかげで人間は幸せになれる。そうではないか?
残念ながら、そうはいかない。エピクロスは幸福を至高の善と定義したとき、幸福になるには骨が折れると弟子たちに警告した。物質的な成果だけでは、私たちの満足は長続きしない。それどころか、お金や名声や快楽をやみくもに追い求めても、惨めになるだけだ。エピクロスは、たとえば飲酒はほどほどにし、性欲を抑えることを推奨している。長い目で見れば、深い友情のほうが熱狂的な乱痴気騒ぎよりも、大きな満足を与えてくれる。エピクロスは、幸福へと続く危険な道を行く人々を導くために、するべきこと、すべからざることをまとめた倫理体系をまるごと一つ略述している。
どうやらエピクロスは、大切なことに気づいていたらしい。人は簡単には幸せになれないのだ。私たちは過去数十年に前例のない成果をあげてきたにもかかわらず、現代の人々が昔の先祖よりもはるかに満足しているかどうかは、およそ自明とは言えない。それどころか、伝統的な社会に比べて先進諸国のほうが繁栄していて、快適で、安全であるにもかかわらず、自殺率が高いというのは不穏な兆候だ。

この記事を書いている少し前に女優の沢尻エリカさんが麻薬所持の疑いで逮捕されました。
下記の記事にも書いたのですが、誰もが女優としての天性を評価する女優にして、若い、キレイ、モテる、お金もある、仕事では神様扱いの評価を受ける。誰がどう考えても神に祝福されたかのごとくこれ以上なく幸福な存在であってあたり前のような人物です。
【アゴラ掲載】沢尻エリカ。天性の女優、高すぎた多幸感のハードル
昨日アゴラに記事を掲載いただきました(一番下にリンクを貼りました)が、沢尻エリカさんの件についてはやはり人並みに関心を持ちました。 それにしてもつくづく人間存在の不条理を感じるのですが、神に愛されているとしか思えない際立った天賦の才を...

でも本人は満足できない。インフレ麻雀のようなものでもはや満貫では上がれない。役満を目指してしまうわけです。
そして目指した先が、エピクロス言うところの「熱狂的な乱痴気騒ぎ」です。

まあ言うても沢尻さん33歳ですから。まだ若い範疇です。
かく言う私も20代~30代前半の頃を考えれば、彼女ほどのバカはやりませんでしたが、それなりの若気の至りはありました。

こればかりは誰しも上を見ればキリがない話ですし、下を見ても同様なのですが、筆者自身にも若く、良い大学を出て良いとされる会社に勤め仕事も充実している、安定した収入もあり幸い健康、あくまで自分比ですが年齢的にも異性の受けも良い時期がありました。
客観的には何も不満などありはしないはずだし、実際、概ね幸福だろうと自覚するのですが、すでに手に入れているもの日常としているものは定常状態。有り体に言えばあたり前になってしまうんですよね。そこに「多幸感」と呼べるほどの瞬間はそう多くはありません。
そうなるとお決まりの、「非日常」に繰り出してみたくなる。
仕事が終わった後に、やれ飲み会だ、合コンだ。週末はスキーだドライブだ。長い休暇は友達を誘ってハワイに行かなければ!
とやけに忙しい。いや忙しくしたくなる。自分でも客観的に考えてしまうんです。
こんな若くてフレッシュな時期はないはず、いわゆる英語でいう”ミントタイムMint Time”とか”ミントコンディションMint Condition”というような時期です。であるならば後悔のないレベルまで「幸せ」を最大化しなければ、「若さ」を堪能しなければと。

今振り返ると、エピクロス言う「熱狂的な乱痴気騒ぎ」が「幸福極大化」の解がないことは自明です。
でもそれを経験したことがない段階では、概念としてはそうだろうとすでに理解していても、自分で経験し体験し、もう分かった十分卒業したといえるところまで納得したい時期があったこともまた事実なのです。
だからこその若気の至り。今や出不精の極みのような生活のほうがはるかに快適です。

実は恐ろしいことに私の子供も、まだすごく小さい頃から、
「あーあ、今日は完璧に最高の一日にする予定が、あれのせいで失敗した」というような類のことを結構言うのでびっくりしたものです。
何を教えたわけでもないのに、こんな親を見て勝手にそんなことを考えるのか。小さいなりに
「人生の貴重な1日、まして老いの気配さえ感じない年齢は今しかない」ならば「幸福感・満足感」を最大化したいと明らかに考えているのです。もちろん子供ですから、論理的・体系的ではないかもしれませんがそんな意識を明らかに持っている。
もちろん小さい子供ですから飲みにはいきませんが、子供は子供なりに友達と遊んだりお絵かきをしたり、その瞬間「幸福」と感じられる最善手に必死なのです。

大学入学のときの総長の祝辞も忘れられません。
「諸君は4年を長いと感じるかもしれない、だが卒業のとき振り返ればこれほど短い4年はないと感じるはずだ。
ぜひ充実した4年にして欲しい」
聞いていた新入学の私には痛いほど感じられました。その言葉を聞かずともそれが真実のテーゼであることを。

大学の4年間に限らず、突き詰めれば人生にどうでもいい一瞬など存在しないに違いありません。
でも「どうせたった一度の人生さ」という基本概念に「今年より来年は確実に年をとる」という考えが加わり、「自己実現し幸福を極大化」すべしという目標設定を真剣に突き詰める始めると、ことはそう簡単ではありません。
ちょっとした強迫観念、「幸福追求のスポコン」主義が発動して自分を攻め立て始めるのです。
(沢尻エリカさんの場合、この強迫観念特に女優という仕事柄も「歳をとる」という圧迫感は相当あったとは思います)

If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?

- Steve Jobs (スティーブ・ジョブズ) -

もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは 本当に自分のやりたいことだろうか?

短い生涯で、まさに世界を変えるような事業を成し遂げたスティーブ・ジョブスの人生は、成果の量で言えば明らかに傑出した人生です。でも「幸福」の最大化で言えばどうなんでしょうか?

<写真:Wikipedia>
自伝やインタビューなど私が知る限り彼は生きる上でも賢者だったに違いありません。瞑想を愛し、富に溺れることもなく生活は質素、仕事を充実させることが家族や人生の豊穣につながるという、考えられる中では誰もが大人になるにつれて悟る「最も人生を幸せにする方程式」の最新版を改訂して亡くなりました。
(それにしても彼が死の直前ネコまんまを食べていた記事には泣いた)
アップル創業者スティーブ・ジョブズ、死の直前に「ねこまんま」 | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌]
 スティーブ・ジョブズが亡くなって、早くも8年になる。 アップルの共同創業者でカリスマ。禅に傾倒し、和食通でもあった。そんな彼の好きだったメニューを知りたいと思い、常連だった店を訪ねた。 訪れたのはシリコンバレーの中心にある「陣匠(JIN SHO)」。ジョブズの自宅からもほど近い。店には個室もVIP用の出入口もない。5...

私は富豪に興味があります。
なぜならば、彼らは我々よりはるかに大きな人生の選択肢をもっているからです。
彼らがありあまるリソースを使ってどんな生活、人生を選択をするのか?
それは「最も人生を幸せにする方程式」の近似値を知る上で、誰しも参考にできるヒントがあるように思うのです。

ZOZO元社長の前澤友作氏の幸福追求スタイルは、ほとんどの人間には参考ならないかもしれません。
なぜなら彼のライフスタイルを実現するためには、巨万のお金が必要だからです。
それ故に彼に対しては、「批判」や「ひけらかし」に対する世間の反発の声が多いのかもしれません。
(私個人は、ほとんどの人が一発当てる気概さえも失った日本の現状への檄と感じる部分もあり、一概に否定的でもありません)

でも安心してください。米国の富豪を見る限り、「最も人生を幸せにする方程式」の近似値のコンセンサスは日本人にはなじみやすい、内省と質素なライフスタイルにあるようです。

次回、ホモデウスの強力な推奨者でもあるビルゲイツにスポットをあてながら、本テーマを続けたいと思います。

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