【第22回】衝撃の書「ホモデウスを読む」 – ウイルス謀略論を一笑にできない、底知れぬ恐怖感

というわけで、新たなエボラ出血熱が発生したり、未知のインフルエンザ株が現れたたりして地球を席捲し、何百万人もの人命を奪うことがないとは言い切れないものの、私たちは将来そういう事態を、避けようのない自然災害と見なすことはないだろう。むしろ、弁解の余地のない人災と捉え、担当者の責任を厳しく問うはずだ。二〇十四年の晩夏の数週間、エボラ出血熱が世界中の保険当局を打ち負かしつつあるように見えるという恐ろしい状況になったとき、さまざまな調査委員会が大急ぎで設置された。二〇一四年一〇月一八日に発表された初期の報告は、エボラ出血熱の大流行への対応が不十分であるとしてWHOを批判し、この流行を、WHOのアフリカ地域事務所内の腐敗と非効率のせいにした。十分迅速かつ効率的に対応しなかったとして、国際社会全体にも、さらなる非難が浴びせられた。こうした批判は、人類には疫病を防ぐ知識と手段があり、それでも感染症が手に負えなくなったとしたら、それは神の怒りではなく人間の無能のせいであることを前提としている。同様に、医師がエイズの仕組みを理解してから何年もたつのに、サハラ以南のアフリカで何百万もの人がエイズに感染して命を落とし続けている事実は、冷酷な運命ではなく人間の失敗の結果と見なされている。もっともな話だ。
だから、エイズやエボラ出血熱のような自然災害との戦いでは、形勢は人類に有利な方向に傾きつつある。だが、人間の性質そのものに固有の危険についてはどうだろう?バイオテクノロジーは私たちがバクテリアやウイルスを打ち負かすことを可能にしてくれるが、同時に、人間自体を前例のない脅威に変えてしまう。医師が新しい疾患を素早く突き止めて治療することを可能にしてくれる、まさにその手段が、軍やテロリストがさらに恐ろしい疾病や世界を破滅させる病原体を遺伝子工学で作ることを可能にしかねない。したがって、何らかの冷酷なイデオロギーのために人類が自ら強力な感染症を生み出す場合にのみ。そうした感染症は将来、人類を危険にさらし続けるだろう。自然界の感染症の前に人類がなすすべもなく立ち尽くしていた時代は、おそらく過ぎ去った。だが、その頃のほうがましだったと懐かしむ日がくるかもしれない。
(Kindle の位置No.280-299. 河出書房新社. Kindle 版.
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今回の新型コロナウイルスはパンデミック(世界にまたがる爆発的流行)と定義されたわけですから、何が原因かということは無論誰しも気になるところです。従来の一般的な理解は、私もウイルス専門家ではないのであくまでメディア等を通じての一般的、世俗的な理解なのですが、中国武漢市の水産市場で何らか動物(魚介類?)と人間の接触から人間が今まで接したことがないウイルスに感染し、伝播していったというものです。

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「米軍が中国に持ち込んだ」と謀略的視点を前提に感じさせる中国のモノ言い

それに対して中国の高官が突如「米軍が中国に持ち込んだ」と言いだしたわけですから、当然トランプ氏は「なに~?!」となっているわけです。自由主義陣営に属する国に生きる私の印象としては、率直に言って、また中国が根拠なくデマを流しはじめたな。というものですが、この発言彼らつまり米中という軍事大国の高官が当然の前提としている常識の存在を感じさせる恐ろしいものではあります。
その常識が何かと言えば、細菌戦やウイルス戦というものを彼らがまったく想定していないわけではないのだなということです。もちろん生物兵器禁止条約(BWC)や人道的見地など公にそんなダーティーな戦争は論外、まさに認められているわけもないのですが、悲しいかな人類の歴史は常に掟破り、外道な戦術で満たされてしまっています。実際に近年でさえシリアがクルド人に対して生物化学兵器を使用したと非難されています。
つまり米中ほどの軍事大国となれば、少なくともテロリストがそういった兵器を使用する想定はしているでしょうし、研究に怠りはないはずです。

(写真:AC)

考えたくないが、ウイルスを悪用されると何が起きるんだろう

一方の平和主義日本としては、そんな話はするだけで汚らわしいという空気がありますね。もちろん願うだけで平和が実現すれば世界中の誰もがそれにこしたことはないわけですが、世界の非情な歴史はそれが妄想にすぎないことを我々に教えてくれます。

たとえば、今回の中国とは言いませんが、某国のように何をしでかすか分からないような狂った独裁国家が、ウイルスと同時にワクチンを開発して、ある国にばら撒きパニックを引き起こした上で世界を脅すとかという話は荒唐無稽でしょうか。こんなストーリーは実際ハリウッド映画にはよくあります。

それは別としても、今回流行の震源地となった中国は、早くも習近平主席が流行封じ込めの実績を始めているようです。共産主義国家の強権を発揮して、日本ではとてもできないような都市封鎖、個人の権利停止と何でもできるし実際にやる国家なわけですから、本来その気になれば自由主義諸国よりはそういう緊急対応には強いのは事実かもしれません。宣伝映像であっという間に感染者用の病棟を建設する映像がしばしば流されましたが、超法規的な対応が可能な中国という国でなければさすがの緊急事態でもあんなことはできません。
20世紀後半はあらゆる局面で共産主義に対する資本主義陣営の優位が証明された時代だったわけですが、ことパンデミックのような状況では個人の基本的な人権や自由よりも国家や体制を優先する共産主義国家の方が優位なのかもしれません。となると、あの中国共産党のことです。毛沢東が革命の実現のためには何千万人死のうがまったく意に介していなかったことは有名な話です。ことと次第によってはパンデミックも悪くないなどと考え始めるかもしれない不気味さを私は感じてしまいます。さすがに近代中国の指導部が作為的にテロリストのような行為をするとは思いませんし思いたくないですが、「新型ウイルス」なんて中国共産党にとっては別に困らない、どうせ困るのは自由主義各国
だなどと内心考え、不作為を貫き、何年かごとに中国発のパンデミックが起こるとすればどうでしょう。我々は相当困ることになるのではないでしょうか。

SF・サイエンスフィクションのようなモノの見方が有用な時代

本連載「ホモデウスを読む」ではしばしば指摘してきましたが、著者のハラリが言うように、劇的に科学技術革新の速度が上がっている現代社会では、SF・サイエンスフィクションのようなモノの見方が必要です。荒唐無稽に感じられるような事態が実際に起こるのが現代社会なのです。
こんなとき私はいつも地下鉄サリン事件のことを思い出します。まさに我々と同時代にこの日本で起きた事件です。最初はみんなが狂ったカルト教団の存在は知りながらも、誰もそんなバカなことが現実に起きるとは思えなかった事件です。
でも実際にサリンは日本で撒かれ、たくさんの人が現に被害にあったのです。

ウイルスに対する疫学的な対処だけでも大変なときにそんなことは考えたくもありませんが、米中のやり取りから垣間見えるそれ以外のモノ。そんな想定、検討も荒唐無稽と断じることができない時代と私には思えてなりません。

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