【第4回 緊急連載】衝撃の書「ホモデウス」を読む – 狩猟採集生活から飼育栽培生活へ

さて、前回紹介した文明論的要素が感じられる米ドラマシリーズ「ウオーキングデッド」の続きです。文明が崩壊し、最初の数年は残った食料を漁る生活です。特に、シリーズの前半では往々悪くないご馳走を発見することもあります。ゴルフ場の豪華なクラブハウスでは、ゾンビと闘う束の間とっておきの名酒を発見したりもしますし。ある意味、狩猟採集の生活ですね。

<写真:公式Twitter>

人類700万年の歴史で、人類が飼育栽培の生活を始めある場所に定住の生活するようになったのはせいぜいこの8500年程度のことです。定住したことではじめて、政治や軍事、文化が発展する余地が生まれたとのこと。ではその前699万年の狩猟採集生活はどんなものであったのか。何度か紹介しましたが、「ホモデウス」とあわせて読むべきベストセラー「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド)には「汚くて・野蛮で・ひもじい」という、狩猟採集生活を一言で評するイギリスの哲学者トーマス・ホッブスの言葉が紹介されています。
何より、狩猟採集生活の都合が悪いところは、「ボウズ」つまり何も取れない日が続く可能性があることでしょう。荒天が続いてしまったりすれば即アウトです。実際、人類が何十億人と爆発的に人口を増やせたのはつい最近のことで、長い狩猟採集生活の間、人類はほとんど人口を増やすことができなかったと考えられています。

幸い、我々は「飼育栽培」という概念をすでに知っていますので、文明が崩壊しても少し落ち着きを取り戻せば、「狩猟採集生活」から脱却するこができそうです。実際に、「ウオーキングデッド」でも、人々が集団化し拠点をなんとか定めまず始めるのは「飼育栽培」です。
しかし、我々はそこで原始的な農業技術はいかに生産性が低いものか気づかされるのです。
そこら辺の厳しいシミュレーションもこのドラマシリーズは教えてくれます。
日頃、現代農業のテクノロジーに疎い我々のこと、自らが飼育栽培を始めれば、いかに自分たちの知見が原始的なものであるか思い知らずにはおれないでしょう。

さて、ここで少々脱線しますが、前々回の第2回記事でお話した、「なぜ、海外特にアメリカに文明崩壊もののドラマや映画」が多いが日本には少ないのかを検討したいと思います。」
日本で、何らかの原因で文明崩壊する話で言えば、何と言っても「199X年世界は核の炎に包まれた」で始まる「北斗の拳」が有名ですね。
Bitly
そういえば他にも「アイアムアヒーロー」が某病原菌で人がゾンビ化する作品で人気がありました。
映画もキッレキッレで面白っかったですよね。
Bitly

でも、やはり日本は圧倒的に、文明崩壊シチュエーションの作品が少ないですね。
何度も言いますけど、アメリカで毎年大量に制作される映画・ドラマでは文明崩壊ものが大人気なのです。核戦争、天変地異、病原菌、隕石、宇宙人、そういえば虫が肥大化する話まであったはず。

この点、察するにやはりいくつかの複合的な要因が考えられます。

やはり第1は、地政的な要因が多いようには思います。今テレビ朝日系列の「ポツンと一軒家」という番組が流行っていますけど、日本人の9割は広義の都市生活者だそうです。つまり、「ポツンと一軒家」な生活を送る人は圧倒的に珍しい。しかしながら、アメリカはその広大な国土もあって「ポツンと一軒家」的な環境は日本に比べれば圧倒的に身近です。あの番組を見ていると「ポツンと一軒家」な方々はそもそも普段からサバイバル生活を送っているような部分がありますね。文明崩壊を想像すらできない都市生活者の我々より、はるかにリアリティをもって日頃からサバイバルを意識できるのではないかと思うのです。

第2はその地政学的要因も背景として、歴史的にも彼らがついこの前まで現にサバイバルの生活を送ってきたという事実です。新しくアメリカ大陸にやってきた移民と先住民族との血で血を洗う戦いは18世紀まで続いたわけであり、多少の内戦は別として江戸城を無血開城した日本人とでは、その点でも未開の地でサバイブしながら過ごした経験のリアリティがまったく違うと思うのです。まして、もっとさかのぼれば広い意味でローマ帝国の末裔である彼らの歴史は、他民族や蛮族、多宗教との血で血を洗う戦いにあけくれており。そうは言っても島国として他民族から隔てられ、少々の内戦程度で過ごしてきた我々とその苛烈さにおいて違いがあるように感じます。

第3に、上記、地政。歴史を反映しての宗教観の違いです。日本人の宗教観は、概ね世俗的平和なものと言っても良いように思いますが、やはりキリスト教をはじめとする一神教のそれは厳しいサバイバルを前提とし、生きるか死ぬかの日常、生活感を反映しているように思われます。それがゆえ多くの一神教に、終末思想、つまりこの世の終わりがビルトインされているのも、単なる空想などではなく、それはそれで彼らのリアリティーだとも考えられるのです。

ご存知の通り、「ホモデウス」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏はイスラエル国籍のユダヤ人です。ヘブライ大学卒業、オックスフォード大学で博士ということです。「ホモデウス」を読めば、彼のバックグランドは何であれ、非常に客観的で何らの固定観念にとらわれない視点で書かれていることを誰もが感じるはずです。むしろ彼の論点は、宗教や政治的信条を含むあらゆる既存の「意味」や「物語」をサピエンス固有の「フィクション」として客観視するこが出発点になっています。
しかしながら、彼の著作には一貫してある危機感。やはりそれは終末思想に通じる「この世の終わり」を恐れる心情があるように思えてなりません。その部分は、やはりイスラエル国籍のユダヤ人であることが多分に影響しているように感じます。

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