【第11回】衝撃の書「ホモデウスを読む」 – 有閑が何を生みだすか

人類は他に何を目指して努力するのか?私たちは自らの幸せをかみしめ、飢饉と疫病と戦争を寄せつけず、生態学的平衡を守るだけでよしとしていられるのか?じつはそれが最も賢明な身の処し方なのかもしれないが、人類はそうしそうもない。人間というものは、すでに手にしたもので満足することはまずない。何かを成し遂げたときに人類が見せる最もありふれた反応は、充足ではなくさらなる渇望だ。人間はつねにより良いもの、大きいもの、美味しいものを探し求める。人類が新たに途方もない力を手に入れ、飢饉と疫病と戦争の脅威がついに取り除かれたとき、私たちはいったいどうしたらいいのか?科学者や発明家、銀行家、大統領たちは一日中、何をすればいいのか?詩でも書けと言うのか?

ユヴァル・ノア・ハラリ. ホモ・デウス 上 テクノロジーとサピエンスの未来 ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (Kindle の位置No.419-428). 河出書房新社. Kindle 版.
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人間というのはよほど業の深い生き物だと思います。余裕があるとろくなことをしません。私が一番印象深かったのは、元大王製紙元会長の井川意高(いがわもとたか)氏。大企業のオーナー家の御曹司にして、筑波中高から東大、まずまずナイスルッキングで、足りないものがどう見てもないという御仁です。その井川氏が106億円をカジノで溶かし、会社から違法にカネを引き出し特別背任でお縄となりました。その会社から違法に引き出したお金も早々にオヤジさんが株を売るなどして清算したようですから、元々カネになぞ困っていません。それでも、こんなことをやらかす。
昼は伝統ある大企業の会長室で皆にかしずかれ、夜は同伴出勤で星付きのすし屋でちょっとつまんで銀座のクラブでブランデーをなめる。週末は一流ゴルフクラブで1日はゴルフ、1日はヨットで海を堪能で良かったわけです。それでも飽き足らない。成功している経済人には、カーレスや競馬の馬主、飛行機の免許を取るなど、努力の結果安泰となった立場の中で合法的にスリルを楽しむ趣味を持つ人も多いですよね。井川氏の場合は、やはり立派過ぎる御曹司ご自分でリスクテイクしたことがなかった分、人生が楽勝すぎてたいていのことで飽き足らない気分があったのではないでしょうかね。良い成果をあげている受験にしても万全の家庭教師がついてある意味、勝つべくして勝っていますから、自分で起業するような難しさとはまったく違います。それにしても、誰がどう考えても因果な話でため息をついてしまいますが、それもまた人間ということではないでしょうか?

一方で、有閑階級がいたからこそ生まれた文化やスポーツも多いですよね。特に、スキー、ゴルフ、テニス、モータースポーツなど今や世界で誰もが楽しむスポーツに有閑階級、特に英国のそれが果たした役割は大きいことはよく知られています。日本でも詩や文学が貴族のものだった時代も長いですよね。

そうついに一部先進国というカッコ付きではあるものの、人類は700万年でついに「飢饉」「疾病」「戦争」を本格的に克服したかもしれない。しかもそれを実現した科学・文明は今やさらに加速度をあげていて、食料やエネルギーさえさらに桁違いのイノベーションで、ほとんどタダに近い費用で生産できてしまうかもしれない。「飢饉」「疾病」「戦争」から逃れるために、子供の頃から明け暮れてきた人類は、多くの人が本格的な有閑時代に入る可能性さえあるのです。

もしかしたらすでに我々はそんな時代をすでに生きはじめているのかもしれません。例えば、多くの人が一日ピコピコ時間を費やしているスマホゲーム。楽しいですけれども、もちろん生きるために不可欠なものではありません。それでも今や多くの人が、それを作り運営するための活動に「仕事」として取組み、生活者もそれを楽しむことに多くの時間を費やしています。

そうホモデウスの主要なテーマは、「飢饉」「疾病」「戦争」という700万年人類を悩ましてきた宿痾から解放されたとき人類は何に価値を見出し、何に人生を賭し、取り組むようになるのだろうか?というものです。なんだそんなの簡単だよ。と答えを持っている人は現時点でそんなにいないはずです。

ひとつの良いモデルケースはビルゲイツです。

<写真ビルゲイツTwitterより>
彼は、世界1とも言われる国家予算に匹敵する資産を抱えてマイクロソフトの経営の一線から若くしてリタイアしました。その彼が今取り組んでいることこそが、彼の立場でしか取り組めない人類的課題にその膨大な資金を使って取り組むことです。もちろん「飢饉」ひとつとってさえ解決した国がある一方でまだまだ深刻に悩まされている国も多い。そんな国々に施してしまえば良いような気もしますが、そんな施しは焼け石に水で、構造的な課題解決にはなりません。
しかも本書のテーマでもあるよう、人類は一見の安泰に見える中で、より深刻な脅威に向かって進んでいるのかもしれないのです。
そんな彼が、本書を熱烈に評価し、その人類最強クラスの頭脳と実行力を何に振り向けるべきかの参考にしていることは象徴的に、現代の人類に自明の未来が存在しないことを示しています。

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