【第22回 家族に障害児がいます from N.Y.】オキシトシンの調査研究に参加

あれは確か息子が5歳の頃だったと思う。我が家はオキシトシン投与の調査研究に参加することを決断した。その頃偶然に、近所の公園で自閉症の息子さんを持つママにバッタリ再会したことがあった。彼女が教えてくれたのは、少し前から彼女の息子さんがオキシトシン投与のResearch Studyに参加しているということ。現段階では投与している物がオキシトシンなのかプラシーボ(偽薬)なのか分かっていないけれど、後半の6か月間はオキシトシンを投与することになる、という話をしてくれた。その話を聞いていた私は「ほぉ~、興味深いなぁ。」という感想を抱いただけだった。その時は自分達もその調査研究に参加しようとはまだ思っていなかった。だがその頃、時々ネットでオキシトシンを投与した自閉症の人の話題を取り上げた記事などを読んでいたので、大変興味深いとは思っていたのは確かだ。劇的に何かを改善してくれる薬という訳ではないけれど、ぼんやりとしていた他者との関係などで、改善の兆しがある人もいるということは自閉症関係者にとっては多少なりとも希望の光であると思う。それからしばらくして、偶然にも立ち寄った病院の中でオキシトシン投与のResearch Studyに参加する人を募集しているというチラシを見た、と旦那から連絡があった。早速、持ち帰ってきたチラシに目を通す。取り合えず記載されている連絡先へ連絡してみることにした。参加条件には年齢制限があり、そして自閉症であるということが必須であったのだが、その点に関しては5歳の段階で未だ言葉が出ていなく、更に過去に自閉症と診断されているということを電話で伝えただけで問題なく受け入れられ、アポイントを無事に取る事が出来た。
調査期間はトータルで1年2か月間に及ぶものだったと記憶している。前半の6か月間に投与される薬が本物のオキシトシンなのかプラシーボなのかは知らされず、後半の6か月は全員がオキシトシンを投与されるというもの。始めに息子の健康診断だけではなく、息子についての問診があったり息子本人に発達検査を行ったり。そういう準備があった上でようやくオキシトシン(偽薬?)を手渡される。オキシトシンは1日1回、毎朝行う点鼻薬である。点鼻するのに凄く嫌がられたらどうしようかと思ったが、初回からこれといった問題もなくクリアー。日々の投薬は問題無く行われたのである。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

結論から言うと、我が子の場合はあまり効果を感じることは出来なかった、、というのが正直な感想だ。最初の6か月を終え、そして後半の6か月も終えた時、最初の投薬がプラシーボだったかどうかも分からなかったし、少々改善された部分があったとしても、それがオキシトシンによる効果なのか、年齢による成長のせいなのか全く分からないくらい微妙な感じだった。多分、もっと軽い症状の自閉症の人だったら多少の効果を実感出来たかもしれない。我が子より先にこのResearch Studyに参加していた近所の自閉症児のお母さんは、オキシトシンの効果を多少なりとも感じられたと教えてくれた。以前よりも感情の交流というか、お子さんがもっとこちら側の世界に入って来ていると感じられる感触があったらしい。そのお子さんの場合は多少なりとも言葉があり、親の問いかけに対して簡単に返事が出来るくらいのレベルであったので、我が家の場合とは比較出来ない。軽度の自閉症の人には効果が出てくる人もいるのだろうと想像は出来る。ホルモン投与だけで効果があるのなら、これは藁にも縋る思いで試してみたいと思う人も多いのではないだろうか?副作用などについては、一番最初に説明も受けていたし説明書も貰っていたので一応目を通して覚悟をしていたが、我が家の場合はこれといった副作用のようなものは見受けられなかった。その点は問題も無く、無事にこの調査を終えたことにホッとした。
今回の体験で色々と経験出来たことは良かった半面、残念ながら負の面もあったことをご報告したい。それは息子に血液検査に対する大きなトラウマを植え付けてしまった可能性があるからだ。この1年2か月の間に、息子は4回ほど血液検査を受ける必要があった。注射、、、それは本当に彼にとって最大で最悪の事態である。それでも一番最初の時は何とか大人4人で全力で取り押さえて血液採取も成功。問題は2回目以降だった。血液採取される病室へと向かう段階で不穏な空気を感じる息子。彼は記憶力だけは良い。これから何が行われるのかを察知し、抵抗を見せ始める。彼の好きな玩具や動画、色んな手を尽くして病室へ誘導しリラックスさせるためのあれこれを画策するのだが、血液採取をする担当者とナースが現れたらもうそこは阿鼻叫喚の場面が繰り広げられる。そして3回目の血液採取が行われた後の病院訪問の時に問題は起きた。未だに恐怖の記憶が鮮明だった息子は、病院の入り口のゲートの前で盛大にひっくり返って敷地内に入ることに抵抗。あまりの大音量の叫び声と道路の上を転げ回る息子の姿に気付けば軽い人だかりが出来ていた。何とか息子をなだめすかして立たせようとするも、ことごとく失敗。抱きかかえようにももう体も大きくなり、抵抗されるとこちらもお手上げだ。仕方なくこちらもしばしの間呆然と佇んでみる。すると一人の中年女性が歩み出てきて「一体どうしたの?」と私に聞いてきた。私は道路の上で転げ回っている息子に視線を送りながら「あの子は自閉症で、前回この病院で血液採取をされたことがトラウマになっていて、恐怖心から病院内に入ることを拒んでいるようで、、。」と話したら、その中年女性が「分かったわ。じゃあ私がこの子の後ろを支えるからあなたは前の方を持って。」と言ってくれ、二人掛かりで息子を持ち上げる形で何とか病院内まで運ぶことに成功!あの時は彼女の姿が仏に見えた。彼女は入り口のドアの隙間から顔をちょっと覗かせて「それじゃ。グッドラック」と言って立ち去っていった。有難い。本当に困ったときに一歩進み出てきてくれる人の優しさと勇気に感謝の気持ちが止まらない。それにしてもそれ以降、病院のある駅で降りた時も改札を出たがらなかったり、色々と手こずることが増えた。この体験以降、私自身が医療関係の物事に積極的に参加することに及び腰になってしまった。このResearch Studyを終える時に他の調査研究に参加しないかと声を掛けられ、一応説明をうけたけれど、その調査では毎日インシュリンを注射器を使って投与しなければならないという話だったのであっさりと不参加の意思を示して終了となった。ただでさえ自閉症児の育児はストレス満載なのに、これ以上のストレスを日々の生活に与えることはもう自虐以外の何物でもないと思ったのだ。現段階でこの障害に改善はあっても治癒というものが無い以上、家族としては安心して穏やかに暮らせる道を模索することがベターなのではないかと思う今日この頃なのだ。

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