【第3回】衝撃の書「ホモデウス」を読む – 拷問のような苦しみ=飢えるということ

「ホモデウス」は、概ね我々がすでに知っていることをベースに書かれています。もちろん、著者のハラリ氏の圧倒的な博学は、的確な事例や裏付けをその圧倒的な知識量から抽出し、読者を力強く説得してくれるのですが、あくまでベースにあるのは歴史、科学の基礎的な教養です。この書の素晴らしいところは、我々も概念としてはすでに知っていることに新たな視点を与えてくれることだと思います。

前回取り上げた「飢饉」ひとつとってもそうです。700万年の人類の歴史で、ごく一部の特権集団以外の人々が「飢え」を知らずに生活できるようになったのは、せいぜいこの100年程度のことです。100を700万で割ると、0.000014です。

読者の大半はおそらく、昼食を食べそこなったり、宗教で定められた日に絶食したり、新式の驚異のダイエットの一環として野菜シェイクだけで数日を過ごしたりしたときにどう感じるか、知っているだろう。だが、何日も食べておらず、次にどこでわずかでも食物が得られるか見当もつかないときには、どう感じるだろうか? この拷問のような苦しみを味わったことのある人は、今日ではほとんどいない。だが、悲しいかな、私たちたちの祖先にとって、それはお馴染みの経験だった。

ユヴァル・ノア・ハラリ (2018-09-06). ホモ・デウス 上 テクノロジーとサピエンスの未来 ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (Kindle の位置No.150-154). 河出書房新社. Kindle 版.

現代社会は複雑ですし変化が急激です。しかも、圧倒的な歴史の時間軸上に築かれていますので、その実相を俯瞰しようと思ってもなかなか難しいです。例えば、「飢え」という概念ひとつとってもそうです。本当に天文学的にラッキーなことに、現代の先進国に生まれた我々は、生まれてから死ぬまでに本格的に「飢える」という体験をしないで済んでいます。でも「飢える」という経験が、とにかく強烈であろうことは想像することがききます。例えば、現代でも海で遭難し奇跡の生還をした人の手記などを読むと、昨日まで優雅にヨットでセイリングしていたのが嘘のような修羅の様相に愕然とさせられます。中には死んだ仲間を食べたことを示唆する帰還記まであるぐらいです。それほどまでに「飢え」というものは人間を追い込むということでしょうか。暑いときは寒さを忘れ、寒いときは暑さを忘れるのが人間とは言え、我々は間違いなく人類が昨日まで「飢えている」ことが当たり前であったことを実感できにくくなっています。

そんな想像しにくいことを考えるとき、助けになるのが、映画やドラマです。前回、ハリウッドものなど海外の映画やドラマ作品に、いわゆる文明崩壊モノが多いと触れました。ユートピアの反対、いわゆる悪夢の未来を描くディストピアの一ジャンルです。面白いというか怖いのが、ありとあらゆる文明崩壊のパターンがあります。核戦争、病原菌、宇宙人襲来、隕石、海面上昇、天候激変、自転の停止など、ハリウッドの脚本家は、スターバックスで毎日どうやって文明崩壊させるかを考えているようですね。

それにしても、この類の映画やドラマを見ると、もし今文明が崩壊したら、我々がどんな生活を送るようになるかリアリティをもって想像することができますよね。
例えば、「マッドマックス 怒りのデスロード」など、どうですか。

<写真:公式ホームページ>

放射能で汚染された空気で体がただれた気味の悪い首領イモータン・ジョーが、貴重な水源をおさえていて、生き残った人々は完全に彼に支配されています。水を与えられないことはすなわち死を意味するからです。彼がきまぐれに水を放水する日、それに群がる人々のシーンはあまりにもショッキングでした。

私が、この手の映画で一番好きなのは「ウオーキング・デッド」です。

<写真:公式ホームページ>

大ヒットテレビシリーズとなり、シーズン9までいきましたので、文明が崩壊して人類がゼロからサバイブするためのあらゆる要素がつまっています。最初は謎のウイルスでゾンビ化した死者との戦いに終始するのですが、ある程度ゾンビとの戦い方をマスターした後は、生き残た人々が小集団を作り出します。この段階でリーダーシップ論や政治論、統治論の視点が大きく浮き上がりだしますね。そして、小集団同士が残された物資を巡って戦いだす段階では、軍事・防衛論や戦争論のモデルケースを見ているような状態になっていきます。さすがアメリカのテレビ業界の脚本家というのは教養があるなと感じる部分です。なぜか、ゾンビに対してだけはどれだけグロテスクにしても良いというか、絶対ギャグだろうと笑えるほどに気持ち悪い描写が多いので、そういうのが苦手な人は見ないほうが良いのですが、私はこのドラマ立派な文明論だと思って見ています。

そんな、「ウオーキング・デッド」も最初の頃は食料が残っていたのですが、回数を重ねていくと文明時代の遺産である食料も尽きてきます。印象的なセリフに「そろそろ缶詰の食料も腐りはじめてきた」という言葉がありました。そう、「缶詰の食料が腐り」始める頃、徐々に彼らは「飢え」との戦いを始めざるをえなくなるのです。

(この項、第4回記事に続く)

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