丹下にヌーヴェル 近代建築好き『電通』の本社売却は、チョットだけさみしい。

いつも新しいオフィスビルの建築がつまらないなあ。と感じています。
もちろん、トイレなどの水回りや空調など設備の良さは新しい建物が断然良いなのですが、
肝心のオフィス・スペースの基本カーテンウオールの嵌め殺しの大きな開口部があって、内部は不燃性のカーペットに蛍光灯の照明。壁は、木目調ダイノックシートという機能性、メンテナンス性追求の決まり金時が、新しい大型ビルになればなるほど同じで、まったく面白くないのです。

自分がいるオフィスもさることながら、私のような仕事ですと色々な大手企業さんを訪問するのですが、
なんとなくどこの企業さんもエントランス工夫されているのですが、なぜか感じる印象は画一的。
「弊社はこんなに明るく、クリエイティブな会社ですよ。」というコンセプトが、書いてあるようなマンネリズムなんですよね。
特に、新築のオフィスビルに入居されている企業さんにこの印象は強いですね。
ビル自体も当たり前にカッコ良く、オフィスも当たり前にカッコ良いのですが、結局それがワンパターン。
腰を抜かすほどハッとするオフィスは、そう出会わないんですよね。
例外はIKEA船橋店の駐車場の横にあるIKEA日本拠点のオフィスは確かに、そのままIKEAの家具で構成されていて、あたかも一般家庭のリビングダイニングがオフィスのようなリラックス感と温かみがあってさすがと思ったり。
あとは、アンダーアーマーさんの倉庫をオフィスにした感じも良いかなあ。
(あくまでこれは大手企業さんのお話ですよ。フォトグラファーのスタジオオフィスなんかはまったく雰囲気が違いますので)

もっと言えば、一番私が日本企業のオフィス空間でダメだと思うのは、執務室です。
相も変わらず、照度だけにこだわったギンギラギンにさりげなくない蛍光灯照明。どんなにカッコ良さげに装ったところで、ほとんどがビニール、プラスチックの内装材、オフィス家具、什器。そこで、パソコンやらコピー機やら下手をすれば自動販売機やらがワンワン稼働しているわけですから良い環境のわけがありません。この状況は表面上のデザイン言語はともかく、最新オフィスほど結局はこの文法に従順に作られています。
まあ、あの張りぼての近代的・最新鋭の空間に納得できる人は幸せなのですが。

その点、電通のオフィスはその部分がまったく違ってるんですよ。
少なくとも聖路加の借ビル時代を除いて、現在の本社ビルと築地本社時代は。

現在の、電通本社ビルは、ご存知の通りフランスの巨匠ジャン・ヌーヴェル唯一の日本国内建築物です。
外観も、一応流石ですかね。ガラスカーテンウオールのシャープさモダンさを強調しながらも、ギリギリお得意の調光システムで単調さを回避しているようには思います。本人は電通ビルには納得していないようですが。

(写真:AC)

何より内部空間が圧倒的で、宇宙船に乗り込むような動線に迫力があります。
特に執務室は、そういう意味で凡百のオフィス空間と一線を画していて、まず天井照明が抑えめ、間接的なのが良い。まさにヨーロッパ人の作った空間です。各自執務時は手元のデスクライトで仕事で集中するスタイルは、グローバルスタンダードですが日本ではユニークです。
色調もグレートーンのグラデーションの超モダンなもので、木目ダイノックシートになじんだ目にはかなりシャープな空間です。

そうなんです。この室内空間。彷彿とさせるのはまさに築地時代の電通本社ビルのモダンな内部空間なんですよね。
あの建物も、巨匠丹下健三氏による作家性の高いものでしたが、まさにディテールの隅々までが美しい、近代建築史上の傑作と私は思っています。

(写真:wikipedia)

そう言えば、あの丹下健三氏設計の旧電通本社ビル、電通テック本社で使われて以降ずーと明かりも付けず放置されていますね、解体待ちとは聞きますが。
そんなところを見ても、今回の売却処置、エイベックスのように資金に詰まってということでないことは明らかでしょうね、
今どき、わざわざ自社で不動産を持たない経営は当たり前ですものね。別に驚くに値しません。
  
まあ一応の感想としては、昔の電通は電通恒産ビルに地方局の東京支社が軒並み入居し、資産だけで3年食える分あると言われていましたし、媒体枠も資金力で買い切りまくるのが電通流で、買い切らない不動産を持たない博報堂との違いでしたが、イージスへの巨額投資もありましたし、もはやそんな時代ではないということでしょうね。

残念と感じる部分としては、モダン建築にこだわりが理解があり、資金もある、残り数少ない日本の文化人企業も、もはやそういう有り様でなくなるのだなあ。多分それゆえ、日本には今後も殺伐としたつまらないオフィスビルの供給ばかりが続くのだろうなあということだけです。

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