【第6回 Netflixがすごい】「アイリッシュマン」一見の価値ある駄作

正直今回紹介するNetflixオリジナル作品「アイリッシュマン」はハッキリ言って駄作です。まったくすごくない。
いやNetflixの潤沢な制作費で、普通ならば予算がつかなかっただろう、老ギャングたちが3時間30分ダラダラと往生際悪くジタバタする作品に予算がついたことがスゴイ。

この連載では基本オススメできる作品を紹介していますので、普段紹介する作品とは趣旨が違うと考えて下さい。でも変な言い方ですが駄作だけど一見の価値があるかもしれない変な映画なのです。

映画とかエンターテインメントをどう楽しむかというのは人それぞれです。
つまらない映画を見るのに1分も使いたくない方も多いと思いますが、ちょっとマニアックに映画を見たい人はつまらなくてもそれなりの見どころがあれば良しとするのではないでしょうか。筆者も高校時代から名画座の3本建てをトレーニングのように見ることを自分に課してきた人間です。そして意外とそんな見ていたときその時間が辛かったようなB級映画のワンシーンが記憶に残っていたりして、自分でもびっくりしたりしています。

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名球会親善野球のような映画

「アイリッシュマン」一言で言えば、名球会メンバーの親善試合を見るような映画です。往年の名選手が老いて動かなくなった身体で野球をするあれです。しみじみと人間の老いるという宿命について考えさせられてしまうのです。
やってる方はきっとどんな年齢になっても生粋の野球好き。やりたくてやっているのでしょうね。でも観る方はかつての選手たちのハツラツとしたイメージを持っているだけに「老いたなー」と切ない。あれだけの天才たちも老いればただの老人という身もふたもない姿にしみじみする他なかったります。

「アイリッシュマン」も作る方は間違いなく、好きで作っている。映画を作るのが好きすぎて、よせばいいのに年寄りの冷や水はやめておこうという自制心を失ってしまっている。

監督がマーティン・スコセッシ。出演ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、ボビー・カナヴェイル。

(写真:ハーヴェイ・カイテル)
このメンツを見てるだけで確かにそそられますよね。まんまギャング映画。ゴッドファーザー出演者も多いし。どうしてもゴッドファーザー再降臨を期待してしまう。ボビー・カナヴェイルのチンピラ顔もいい味出してる、よっハリウッドのピエール滝。

(写真:ボビー・カナヴェイル)

でも期待しているようなキレッキレのギャング映画をを期待すると裏切られます。
まず冒頭のシーンからして、老人ホームで過去を振り返るロバート・デニーロの回想シーン。ご丁寧に鼻にチューブまで挿してよぼよぼです。
マーティン・スコセッシとロバート・デニーロと言えば「タクシードライバー」のコンビですからね。あの”do you talking to me?”で有名な。痩せてギラギラとした狂気をみなぎらせるロバート・デニーロが「俺に話しかけてんのか?」と、あの笑ってるとも怒っているともとれる表情の独白シーン、映画史に残る場面がどうしても思い出されます。
You Talking To Me? - Taxi Driver 1976 in HD
Robert De Niro in an iconic scene from the 1976 film Taxi Driver, atleast everyone on the planet has heard this said before from somewhere or another 🙂 enjo...

まさにあのシーンで描かれていたのは、狂気や貧しさを含めての「若さの暴走」でした。それを考えるとまさに真逆の時間軸。期せずして「アイリッシュマン」では「老い」が描かれてしまっています。

制作サイドにどこまでそういう意図があったかはわかりませんが、出演者が老いてしまっているわけですからどうしようもありません。あのアル・パチーノも若き日のマイケル・コルレオーネの触ればヤケドしそうな鋭利な感じはもはや感じられません。確かにそれがゆえの大物感は演出されているような気もしますが、アルパチーノのこの姿は見ていてつらいモノがある。

もはや老年ドキュメンタリー作品

そういう意味で、この作品妙にドキュメンタリー的なんですよね。よく知っている俳優の老いた姿をリアルに堪能するという。誰にとっても老いはやってくるわけで、それとどう折り合いをつけるか。「アイリッシュマン」に描かれるギャングたちは、ギャングですからね。まさに往生際が悪い人たちで、老いてなおジタバタする。まあこの高齢化社会、スカッとする要素は皆無ですが、そんなリアルにしみじみとするのも一興かもしれません。
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アカデミー賞受賞しなかったのは当然として、ノミネートまでされたのはやはり錚々たるビッグネームに忖度したですかね。アメリカにも忖度あるんだな~。

デニーロで言えば「マイインターン」の方が受ける時代

もう一つ面白いなと思うのが、老いたロバート・デニーロと言えば映画「マイインターン」の評判が最近また良いですよね。あのアン・ハサウエイ演じる若き創業社長を支える、シニア・インターンのロバート・デニーロの好人物ぶり。今や日本の企業社会、年をとっても組織の底辺から後輩を支えなければならない立場の人が腐るほどいる時代ですからね。そんな時勢に、自分なりの人生をやり遂げて納得して若い世代のサポートに回る達観した人物の、それがゆえに立場を超えて尊敬される姿。これはこれで素晴らしき「老い」の表現でした。誰もが大好きになってしまう映画でした。

(写真:マイインターン公式HPより)
「アイリッシュマン」で描かれるデニーロは、その真逆。人殺しなどギャングとして悪行をやりつくし、あげく往生際の悪いギャング仲間との確執もあり、殺伐とした老年時代がそのままドキュメンタリーのようにリアルに描かれる。身もふたもないと言ってしまえばそれまでです。

筆者個人は結論として、「マイインターン」から「アイリッシュマン」まで。「タクシードライバー」から「アイリッシュマン」まで。
人間の様々を余すところなく描いてくれる映画という表現そのもの(この作品Netflix オリジナルですから、映画館での上演は極めて限定的でしたが)が大好きです。

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